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日本の庭をつくる
『情報誌 京都』  2000年7月号  (石田大成社)

日本の庭をつくる
京に学ぶ
京都的発想を次世代へつなぐ立役者にインタビュー
日本の庭をつくる
第4回  受け継ぐのはスタイルでなく精神

造園植治11代 小川治兵衞さん

江戸の宝暦年間(1751〜63)創業以来、11代と続く植治の小川治兵衞さん。京都には代々が手掛けたと伝わる日本庭園が点在しています。そこには独特の形式があるのでしょうか。
庭づくりに形式なんてものはありません。庭は庭師の作品ではなく、施主の要望があって初めて成り立つものです。我々は施主の気持ちに成り代わって仕事をしていくのです。素敵な家や庭を見かければ、どんな人が住んでいるのだろうと気になりますね。そんな時は大抵が「ああ、やっぱり」と想像する通りの素敵な人だったりするのです。我々庭師は、施主の好みと目的を十分聞いて、家族構成を知り、この家庭にはどんな庭がふさわしいかを考えるのです。施主の思いに、プロなりの意見を添えていきます。庭は、造ったら終わりではなく、造ってからが始まりです。自然物を材料としているため、年月が経てば自ずと自然の力(樹木の成長など)が加わります。そこにどう手入れをしていくか。10年後、20年後の施主と庭の付き合いを見据えながら、「こんな暮らしをしていただきたい」と希望的観測をもって庭づくりにあたるのが植治流といえますね。

庭づくりに大切なことは何ですか。
人々が庭に求めるものは、安らぎです。では、人は何に安らぎを感じるかということになりますが、それはやはり自然です。自然は、人間を形づくる根源であるからです。例えば、水は人間の血や汗を、土は肉体を、空は心を、というように。これら自然物を自然の摂理をもって構成することが、人々にとって最も安らぎの得られる庭づくりとなるのです。 また、個人宅の場合は、施主が庭を眺める際に周りの景観を気にされることがありますが、これにはトリックを使うんですよ。 例えば隣家の高くそびえる壁が目障りならば、庭の見せどころを低く配置して、目線をそらすことを考えます。周りの建物をどうにかするわけにはいかないので、発想の転換をするのです。すでにあるものを、人間の工夫と知恵次第で何とかするのも、庭づくりのポイントです。

近頃ガーデニングが流行しています。 日本庭園との違いをお聞かせください。
ガーデニングは、花を咲かせることが楽しみですから、四季を問わず、途絶えることなく次々と花を咲かせようとしますね。ところが日本庭園の場合は、日本独自の四季の風情を感じることに楽しみがあります。春には桜が咲き、夏は新緑、秋には紅葉、冬には枯木に雪と、年中花を咲かせているわけではありません。しかし、伝統的に「春の桜を待つ」美学があるわけです。冬の枯木もまたよし、どの季節もそれぞれ味わいがあるんですね。

“伝統”をどれほど意識されていますか。
京都のあらゆる伝統産業に言えることだと思いますが、スタイルは時代によって変わって当たり前だと思うのです。伝統とは精神を受け継ぐもの。私は、代々の功績にあぐらをかかず、自分が一代だと思って、仕事に取り組んでいます。

日本の庭をつくる 「造園業は自然が相手。あらゆる自然物の性質を知っていなければなりません。一生、勉強ですよ」と語る小川治兵衛さん。

日本の庭をつくる
霞中庵(かちゅうあん/近代の日本画家・竹内栖鳳がこよなく愛した嵯峨の別邸)の庭。昭和60年代、栖鳳をイメージして新たに作庭された。 苔がしきつめられた庭は珍しい。通路のゆるやかなカーブが特徴的。「日本庭園らしくないところが新鮮でしょう」と小川さん。

日本の庭をつくる 小川治兵衞さんが手掛けた、ある農家の庭。 台所から見える庭(左)の石は、すべて以前の庭石を利用したもの。山の湧水のように水が流れる仕組みとなっている。ちょろちょろと水の流れる音が心地良い。さらに、奥の庭(下)はガラリと印象が変わり、家族や親しい友人と過ごす場として最適の空間。フランスの田舎をイメージして造ったとのこと。
日本の庭をつくる

表紙
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