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伝統と「超新星爆発」////「造園植治」の次代を担うものとして////
『日本の老舗』  2006年  No.249  (白川書院)

伝統の継承
しばしばお言葉を頂く。「伝統の継承は大変でしょうね」。しばしばお答えする。「先人の想いに触れ、更に想いを重ねられる事は慶びです」。
ともすれば「伝統」や「継承」といった響きは保守的に捉えられがちである。しかしその実際は革新的なものであり、時代毎の試行錯誤や換骨奪胎という営みの後に辿り着く「超新星爆発」を積み重ねて行くものではなかろうか。
(超新星爆発とは恒星が生涯を終える際起こす大規模な爆発の事で、新星が誕生する程の輝きを放つ。爆発に伴い星は四散するが、その衝撃波が新たな星の誕生を促す。伝統の継承に際しては超新星爆発の如き力が働くものと捉え、この様に表現する。)

京都における超新星
しばしばお言葉を頂く。「京都には古くて良い物が残っていますね」。しばしば感ずる。「良い物とは古いだけに止まらず、想いもずっと生き続けているのであろう」。
京都の町は応仁の乱やどんどん焼けといった幾度の戦乱や大火を経ながらもその都度復興を遂げ、町の伝統を継承し続けて来た。平安京の骨格の下生まれ変わり続けた碁盤の目の町は、数々の消滅の危機を「超新星爆発」へと昇華させ、姿を変え続けて来た。現在の京都の町は伝統建築と近代建築が共存し、生活様式も一変する中、祇園祭を始めとする年中行事も受け継がれ続けている。私達はそこに、災いに遮られることの無い継続した想いを感ずる。生き続ける町や物を目にする事、それは繰り返された爆発からなる一筋の道を辿って行く事なのかもしれない。

樹木における超新星
しばしばお言葉を頂く。「樹木を現状の大きさに維持して下さいね」。しばしば心掛ける。「次世代の枝葉に頑張って育ってもらいたい」。
考えの無い剪定や当年の姿のみを考慮した剪定、その多くは当年徒長した分の枝葉を落とすという手法を取って行く。結果、 同一箇所に毎年鋏を入れて行く事となる。 一見して、確かに大きさは維持されるが、その切り口は瘤状となる。これを繰り返す事により、樹木は取り返しのつかない可愛そうな痛手を負ってしまう。
樹木の心持ちを噛締めた際、当年の容姿にのみとらわれた安易な剪定を施す事は考えられない。当年の容姿はもちろんの事、今後を見据えて鋏を入れる事が当然必要とされる。 当年の主力の枝を作り、その懐には翌年の主力候補の枝を作る。 更にその懐には2年後3年後に主力になるであろう予備軍の枝を育てて行く。 よって翌年の剪定では前年の主力の枝を切り、 育って来た候補生が主力を担う。 それに伴い予備軍は次年度以降の主力候補と成長するのである。 つまり樹木の大きさは変わらずに維持されては行くが、実はその年毎に異なった枝が主力を担って行く。剪定に際し、私はその営みを最も尊重して行うべく心掛けている。
現状維持とはいかにも保守的に聞こえはするが、そこで芽吹く枝葉は常に生まれ変わり、その年毎に「超新星は爆発」する。

お庭における超新星
しばしばお言葉を頂く。「お庭を元通りに復元するべきですよね」。しばしば葛藤を覚える。「過去の一点に時間軸を巻き戻す表面的復元に止まらず、現在にまで時を繋げる不可視的内面にも配慮せねば」。
現実問題を考えて、可視的復元ですら困難を極める。まして込められた想いや雰囲気といったお庭の不可視的内面にまで踏み込んだ復元であればなおさらである。石一つを例にとってみる。笑った顔、怒った顔、のっぺりとした顔、石には三つの顔があると考える。笑った顔の石を据え替えて、再び笑ってもらうべく試みても、二度と同じ笑顔は振り撒いてはくれない。ほんの僅かな角度や噛合せの変化は、測量による数値で弾き出したはずでも、込められた想いや雰囲気までを醸し出すには至らない。「この石の上で立止まって頂くと、石の振りが自然とお庭の見せ場を示してくれる」。「この石は正面は勿論横顔も素敵なので、異なる場所からもご覧頂こう」。「石の主役と樹木の主役に上手く共演してもらわなければ」。想いは石一つに込められるのみならず、周りの石や樹木等取り巻く全てと相互関係を築く。一旦解消された関係は、一つ一つを新たに再構築せねばならない。結果、その時その時を石は輝き、その都度表情の異なる石の笑顔に触れる事となる。
数値に基づく表面的復元に終始せず、敬意や愛情といった想いを重ねてこそお庭は輝き、生き続けて行くのであろう。不可視的内面の復元継承といった営みにおいても、数々の「超新星爆発」は起こって行く。

超新星の輪廻
「伝統の継承」とは、想いを受け渡し、受け取る事。それは可視的継承に止まらず、不可視的精神の継承に他ならない。伝統が継承される毎に、「超新星爆発」は繰り返される。形ある物が失われ、新たな構築物が生み出されても、そこには敬意や誇り、愛情といった想い、その新星のごとき輝きが更に重ねられる。京都がそうである様に、樹木やお庭がそうである様に。過去を尊び、現在に感謝し、未来に託し、「超新星は爆発」する。
しばしばお言葉を頂く。「今日も清清しいお庭ですね」。しばしば嬉しくつぶやく。「明日も明後日も清清しくあってもらいたい。より清清しくあってもらいたい」。
今日まで重ね続けられた想い。幾度もの「超新星爆発」を静かに繰り返しながら今日も想いは重ねられ、きっと明日も想いは重ねられる。
伝統と「超新星爆発」 伝統と「超新星爆発」

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