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特集1 紅葉の「つう」な楽しみ方とは?
  ~小川勝章(造園・植治)さんに聞く、お庭と紅葉の楽しみ方~



小川勝章さん
Ogawa Katsuaki Profile
11代小川治兵衞の長男として生まれ、高校より修業を始め大学卒業後、造園・植治に入社。
歴代・当代の手がける庭園の作庭、修景、維持を行うほか、
新たな庭園の作庭や現代美術において庭園表現を手がけている。
名城大学特別非常勤講師等を歴任するほか講演活動も多岐にわたる。


庭園との出会いは一期一会

「もみじは、たくさんあれば艶やかで美しく、一本だけなら美しさが凝縮されている、日本人的美意識にあふれたものだといえます。もし日本庭園にもみじがなかったら、悲しいものになってしまうのかもしれません」という小川勝章さんは、近代日本庭園の先駆者として知られる作庭家・小川治兵衞を受け継ぐ家に生まれ、高校時代より歴代の庭園から様々なことを学んできたといいます。
そんな小川さんに紅葉が美しい庭園はと伺うと、「ここのお庭がいいですよと私は端的に申せません。去年はよかったけど、昨日はよかったけど、今日は、明日はどうだろうと思うからです。私がいちばん美しいと思うのは自然の風景で、忘れられない夕日に出会うこともあります。けれども同じ場所でも、二度と同じ夕日には出会えません。自然同様、お庭も一期一会なんです。ですから皆さんにお庭をご覧いただく時には、ご自身のお庭だと思ってその一時を楽しんでください、と申し上げています。さらに大好きな木を探すこともお庭と仲良くなる秘訣ですと申し上げるんですね」
近代日本庭園の先駆者といわれる小川治兵衛の庭は、無鄰菴(山縣有朋別邸)、清風荘、對龍山荘など市内にも数多く残されており、平安神宮神苑、円山公園など、身近に拝観できるものもある。
(撮影・池田和)  








紅葉は日本人の美意識の反映

「美しいものは表裏一体で、日の当たる部分もあれば影の部分もあります。紅葉の美しさは陽の部分ですが、非常にもの悲しいという陰の部分もあります。紅葉はすなわち、本来緑色である葉の色素が失われる様でもあります。枝にしがみつく葉は、色素と共に力を失い、舞い落ちる。一年の命を終える間際に美しく輝くというのが紅葉です。生命あるものはいつかは死んでしまう、そのはかなさを美しいと思う心こそが、日本人的な美学なのだと思います」
また、小川さんによれば、秋の紅葉の美しさは、もみじのような落葉樹と常緑樹との健やかな関係があってこそだといいます。
「お庭の中にはいろんな木があり、主役の木、準主役の木、エキストラの木と役割があります。日本庭園の主役の多くは常緑樹です。年中不変の松がどんと構えていることで、安心感が生まれます。主役がいつも空間を引 き締めていてくれる。しかし緑だけでは、松だけでは引き立たない、そこにもみじの枝が一枝あったらどうでしょう。移ろい行くもみじの紅葉は確かに美しいものです。しかしそれだけではありません。春の芽吹きの淡い黄緑色にはエネルギーを感じます。夏には力強さを増し、秋を迎える。どれもがもみじの大切な表情であり、この移り変わりによって松がまた違って見えてくるんですね。常緑樹だけでは気がつかない、もみじだけでは気がつかない、一枝のもみじがあることで主役の松も春夏秋冬の季節の見え方が生まれてくるわけです」 
小川さんは自然の植生に逆らわないという植治の伝統を大切にしている。
(撮影・池田和)  






植治の庭園の楽しみ方

植治の庭園の特徴は自然の植生に逆らわないことという小川さん。「東山でも今はずいぶん松食い虫の被害を受けて椎の木の山になっていますが、昔の東山は赤松の山だったんです。そこで周囲にも育つ赤松をお庭にも少し植えてみます。すると敷地と山が繋がりを持ちます。自然の植生に逆らわない、自然の流れをお庭に取り込もうという発想が植治の庭園にはあります。自然の中で木はグループ状に生えていますから、お庭の中でも木はグループ状に置くとか、相性のいい木を添えるとか、より自然に近い見え方を心がけています」
庭園鑑賞でよくいわれる借景も、かつては山であったものが今はビル群へと変わっています。そんな中でもまわりの空間と仲良くすることが大切であり、自然への尊敬を失ってはいけないといいます。「借景というのは、かつては山とお庭がいい関係を保っていたと思うのですが、お庭だけが借りているのではダメなんです。山の方にも貢献できる存在でないと山に認めてもらえない。ビル群とでも仲良くできる、そんなお庭が理想です」


海外に日本庭園の魅力を伝える

「自然への憧れや尊敬の念をぎゅっとお庭に詰め込んでいます」という小川さんは、現代アートとしての庭園造りにも取り組んでいて、コンビを組んでいる華道家の三重野貴氏と共に来年1月にはパリで「パリ2区──庭士と花士・出会いと見立て」と題した展覧会を開き、日本庭園のルーツを表現したいといいます。
「西洋の木を雅に仕立てることも一つではありますが、今回は日本庭園のそもそもの根幹部分を抽出してみようと思っています。例えば枯山水では苔の築山を大陸に、白川砂を大海に見立てます。その日本庭園独特の見立ての美学を作品にぎゅっと詰め込んでいます」               
2009年の西陣・スタジオyu-anでの展覧会で発表した「横たわる女松」と題された小川さんの作品
(撮影・池田和)  





庭園の実力は冬に現れる

紅葉の頃がもっとも注目されるもみじですが、本当に試されるのは冬だという小川さん。そして冬こそが庭園の実力を推し量る時だといいます。「冬には葉を落として骨格が現れてきますからね。春の桜や、秋のもみじは、共に艶やかな時期はわずかです。お花が咲いていない、紅葉のない時期にも美しいお庭が本物といえますね」
今年の紅葉を楽しんだ後、冬再び同じ庭園に足を運んでみてはいかがですか。ひと味違う庭園の楽しみ方を見つけることができるかもしれませんね。


紅葉写真のもう一つの楽しみ方

「どのお庭にも正面の顔があります。昔は、この顔の多くは床の間を向いていました。でも魅力のある顔は正面だけとは限りません。人間の顔と同じように、違う角度も美しいということもあるので、お庭を見る際にも、ご自分なりのビューポイントを探すとよいかと思います。もみじも正面から見ることが多いと思いますが、一度もみじの気持ちになったつもりで、もみじの内側から写真を撮ってみてはいかがでしょう。もみじはどうやってお庭を見ているか、もみじの幹から枝を透かして見るとまた違ったお庭の魅力が見つかるのではないかと思います。私は松の位置から、滝の位置から、お庭を見て写真をよく撮ります。主役の気持ちでお庭を見るとどうなんだろうという視点ですね」と小川さんに、お薦めの撮影のポイントを伺いました。     
(撮影・池田和)